西の国 西の岬
人気のない国道を右に折れると草原がひろがっていて
草原のむこうに岬がつづいている 岬は
その国の玄関であり頬でありつづけたから
その堅いいぶかしげな表情のわりに
来る者をこばまない
岬に吹く風は 太古から流れてきたせいもあって
いろんな呻きや轟きが聴こえてくる
(洞窟の奥深く火の焚かれる音
城壁くぐる兵士の歓声
空の中のステルスの沈黙)
しかし風は
潮のにおいしかしない
風の運ぶ荷物は時代とともにうつろうが
風はいつだって海を通ってくるのだ
・・・そのなつかしいにおいに
胸の奥をくすぐられるような気がする
岬を引き返すと
小さな街がひろがっていて
かわいらしい露店や小路がどこまでもどこまでも
つづいているかのように見えた
が
私の家は海の向うだった